犯行当日の平成3年12月9日午後1時ごろ、高橋守男=仮名=は、凶器となる登山ナイフを用意し、実家のある県南の村を父親から借りた軽自動車で出発した。
凶行の現場となった菅原マサさん=仮名=宅は、夫(67)と長男(37)、二男(34)の4人暮らしだったが、夫は県外への出稼ぎで不在だった。高橋は、訪問販売で訪れたことのある菅原家の事情にある程度詳しく、犯行に当たって2人の息子の存在が気になっていた。このため数回の電話で息子の不在を確認した上、同日午後8時半ごろ、菅原さん宅に到着し、外から家の中の様子を用心深くうかがいながら、犯行の時を待った。
午後9時ごろ、指紋を残さないように軍手をはめた手にナイフを握りしめた高橋は、大胆にも玄関から侵入。応対に出て来たマサさんの首にナイフを突き付け、「金を出せ」と脅した。
しかし気丈にもマサさんは、現金が置いてある場所をなかなか白状しない。高橋は、首に何度も切りつけながら脅し、「金を出せ」とせき立てた。
マサさんの首から鮮血が流れ出す。恐怖に顔をひきつらせながら寝室のタンスを示すと、そこに強引に連れていき、タンスの引き出しから通帳などが入ったかばんを取り出させた。するとマサさんが突然騒ぎ出した。
「人が来た」
高橋はマサさんから力づくでかばんを奪い取った。
かばんを取り返そうとマサさんは両手でナイフをつかむなど必死の抵抗を試みたが、ムダだった。逆に押し倒され、首筋を何度も刺された。頚椎(けいつい)に達する深い傷が致命傷となった。
奪ったかばんを手に高橋は、乗ってきた軽自動車で走り去った。
途中、車を止めて奪ったかばんの中身を確かめると数通の預金通帳や印鑑などが入っていたが、目当ての現金はなかった。預金通帳や印鑑など中身を抜き取って空っぽになったかばんや凶器の登山ナイフなどを、滝沢村の山林や盛岡市内を流れる北上川に捨てながら、午後11時ごろ、実家のある村に逃げ帰った。
そして、「事件が発覚すると、銀行に通報され、預金通帳が使えなくなる」ことを恐れながら、夜が明けるのをひたすら待った。
銀行にサングラスの不審な男
翌10日午前9時10分、北上市大通1丁目の岩手銀行北上駅前支店に、白いつなぎ服に白いジャンバー、白い帽子、それにサングラス姿の40歳くらいの男が、開店を待っていたかのように現れた。昨夜、マサさんを殺害して預金通帳を奪った高橋である。
窓口で応対した行員には「いまの時期、こっちに来て稼いでいる」と話し怪しまれないように平静を装いながら、マサさんを殺害し奪った通帳で175万円を引き出ると、銀行をあとにした。
それから10分後、こんどは同支店から1キロほど離れた同市本町通り2丁目の岩手銀行北上支店に姿を現し、昨夜盗んだ別の通帳で21万円を下ろしあわてた様子で足早に立ち去った。
銀行で引き出した計196万円を懐に、マニラ市にいるフィリピン人妻を呼び寄せ暮らすためのアパートを水沢市内で契約。さらに同市内の家具販売店で購入したソファなどをそのアパートに運び込んだ。しかし、このアパートで二人が暮らすことはなかった。
このアパートから実家に帰る途中、盗んだ預金通帳、殺害時に着ていたジャージ、スニカー、軍手などを水沢市と江刺市の境にある桜木橋の上から北上川に投げ捨てた。(つづく)

